前回からのつづき・・・
ジェンナー氏が種痘接種を初めて行なう以前から、
当時の人々の間で、天然痘に感染し、回復した人は
二度と天然痘にならないことが知られていたため、
人為的に天然痘に感染させて免疫をつける方法として、
天然痘患者の水疱の膿を、まだ感染していない人の
傷口に塗布し、意図的に感染させる、「天然痘接種法」
というものが行われてはいたのですが、
致死率が2%と高く、危険な免疫獲得方法でした。
また、ジェンナー氏が天然痘の研究を行う以前に
牛の乳搾りをする女性が、
「私は以前、牛痘(ぎゅうとう)にかかったことがある
ので、天然痘にはかからない」と言っていたことを、
自身が直接聞いており、耳から離れなかったとのこと。
そんな中、ジェンナー氏は以下のポイントに着目。
①
牛痘は、牛の皮膚に痘疱(水疱のような跡)が
多数できる伝染病だが、乳牛が感染するとその乳房にも
多数の痘疱ができる。
人が乳搾りの際にこの乳房の痘疱に触れ牛痘に感染。
人の手の皮膚に水疱などの症状が現れても、
2から3週間後にはかさぶたとなって治ってしまうなど
症状が軽い。
②
乳搾りをする人たちは、牛の乳房を触ることで
天然痘よりも弱い牛痘に感染してしまうが、
毒性の強い天然痘にはかからない。
以上の事実をもとに、ジェンナー氏は、
1778年から18年間にわたって研究をつづけ、
牛痘患者の水疱の中の液体が、何らかの方法で
天然痘に感染するのを妨げていると結論付け
この仮説が正しいか、実際の人体で
試してみることに・・・
まず、牛痘に感染している人に対して弱毒性の
天然痘ウイルスを接種し、発症が無いことを確認。
そして、1796年5月14日、
牛痘に既に感染していた、乳搾りの女性
サラ・ネルメス(Sarah Nelmes) さんの水疱から
取った膿を、ジェンナー氏の使用人の8歳の子供、
ジェームス・フィップス (James Phipps) 少年の
腕に初めて接種。(= 種痘接種)
その後、何度となく同じように取った膿を
少量ずつ増やして同少年に接種することを繰り返し、
10日後、少年が牛痘を発症したが、若干の発熱と
不快感を訴えたのみで、すぐに治癒。
そして、最初の牛痘接種から6週間後、
ついに天然痘を少年に接種。
その結果は!?・・・
感染なし!
人類史上初のワクチンである天然痘ワクチン
(= 種痘)に道が開けた瞬間でした。
ちなみにワクチンという単語は
英語で vaccine、ドイツ語で Vakizn。
ラテン語の 雌牛= Vacca が語源。
ジェンナー氏の、この天然痘ワクチンに雌牛の牛痘が
使用されたため、この名前が付けられているとのこと。
日本語のワクチンはドイツ語の Vakzin の読み方が
そのまま日本語になった外来語。
その後紆余曲折ありながらも、ジェンナー氏の開発した
安全性の高い天然痘ワクチン(= 種痘)は多くの人を
助けることになるのですが、ジェンナー氏は
あえて特許を取りませんでした。
特許を取るとワクチンが高価なものになり、たくさんの
人々に行き渡らないと考えたからだったのです。
こうした、ジェンナー氏の人類初のワクチンの開発と
様々な功績が称えられ、ジェンナー氏は、今では、
「近代免疫学の父」と呼ばれています。
開発された天然痘ワクチン(= 種痘)によって
感染者数は劇的に減少。その後のワクチンは改良され、
世界中で接種されるようになり、
天然痘根絶に尽力を尽くしたWHO、世界保健機構は、
1979年、天然痘の根絶を確認。
1980年「天然痘根絶宣言」を行っています。
よって、天然痘は、人類が根絶した、人類に感染する
唯一の感染症となったわけですが、世界で2か所だけ、
天然痘のウィルスを保管している場所があるそうで、
アメリカのCDC・アメリカ疾病予防管理センターと
ロシアの研究所なんだとか・・・
新型コロナウイルスの封じ込みに失敗して、
パンデミックを引き起こしてしまった今となると、
2か所に保管されている天然痘ウイルス!
ちゃんと管理しておいてよ!
と叫びたくなるのは私だけでしょうか?
明日香